よく耳にするチラーという言葉。
チラーには水冷や空冷などの種類があり、結局はどんな機器なのか分からなくなる人も少なくありません。
この記事は、そんなチラーについての基礎的な知識をまとめています。
水冷・空冷の違いから、冷却塔(クーリングタワー)との違いまで解説していきます。
本記事では「冷却水循環装置」と呼ばれるものに焦点を絞って説明します。
いわゆる圧縮式冷凍機や吸収式冷凍機もチラーと呼ばれますが、ここでは触れておりません。
チラー(冷却水循環装置)とは
チラーとは、水などの液体を循環させることにより、ターゲットとなる液体や装置の温度を一定に調節する機器のことです。
別名「チリングユニット」と呼ばれることもあります。
温度コントロールが必要な試験装置や産業機器に使用されることが多いです。
例えば、産業機器ではレーザー加工機や射出成型機そして食品加工装置など、その他半導体製造分野や電子顕微鏡の光源部の冷却等にも使用されているそうです。
主に冷却を目的とする機器なので、英語の「chill」が語源となって「チラー」という呼ばれ方になっています。
同じチラーでも、排熱の方式により水冷と空冷に種類が分かれます。詳細は後ほど「水冷・空冷チラーの違い」にて解説します。
チラーの役割
一般的にチラーは冷却機器として扱われることが多く、使われる場面の多くは先に述べたように産業機器や試験装置です。
世の中の多くの機械は、動くために熱を発生させます。
この発生した熱を下げなければ機械の内部に熱が溜まり、誤作動や故障の原因になることもあります。
その熱を処理し、機械の温度を適切に保つ役割を担うのがチラーです。
空調機器の知識を持っている人は、ここである疑問が出てくるかもしれませんね。空調機器の中には冷却塔(クーリングタワー)と呼ばれるものがあります。
ここまでの大まかな解説で、冷却塔との違いが今一つ分からなくなってきた人も少なくないでしょう。
構造などの詳しい解説は次項で行いますが、冷却塔との役割の違いを少し紹介します。
この2つの機器の役割の違いとは、対象となる水の違いです。
簡単に説明すると以下のようになります。
チラー・・・温められた「冷水」を冷やす
冷却塔・・・温められた「冷却水」を冷やす
上記のような冷水と冷却水は、似たような単語ですが以下のような用途による違いがあります。
冷水・・・外気温度より大幅に低い温度までの冷却や、温度管理にシビアな冷却に使用(機種によりますがマイナス20℃くらいまで対応可能で、循環先の温度に対応します)
冷却水・・・温められた水を外気温度くらいまで冷やし、温度管理にあまりシビアでないものに使用(冷凍機が主機の場合、37℃まで温められた冷却水を32℃まで冷やします)
これらの用途に合った水を冷やす機器が「冷却塔」と「チラー」に区別されているのです。
チラー・冷却塔(クーリングタワー)それぞれの仕組み
では、ここから「チラー」「冷却塔(クーリングタワー)」の仕組みについて前項より詳しく解説していきます。
この2つは役割が似ているので混同してしまいがちですが、仕組みや役割を見ていくと違いが理解できます。
チラー
この記事での主役であるチラーですが、多くの場面で冷やすことが目的となっていることから冷却塔と混同されがちです。
しかし、この機器の役割を正確に表現するなら「一定の温度を保つために使用される機器」となります。
温度が上りすぎた、もしくは下がりすぎた液体や対象機器を適切な温度まで調節するのが本来の役割なのです。
冷却塔
冷却塔とは、空調設備の一つです。
冷凍機で温められた冷却水を冷やし、冷凍機に戻すことにより冷却水を循環利用できるようにしています。
冷却水を冷やす際には、冷却水に外気をあてて一部を蒸発させる気化熱の原理を利用しています。
冷却塔にも種類があり、大きく分けると「開放式」と「密閉式」の2つがあります。
冷却水を冷やす方法がそれぞれ違うので、分けて見ていきましょう。
まず開放式ですが、外気と冷却水を直接触れさせて気化熱の原理で冷却水の温度を下げる方式です。
冷凍機の凝縮工程で熱を奪って温度が上がった冷却水を、冷却塔上部にある散水装置から下部へと落とします。
その際、散水装置のさらに上部にある送風機で外気を誘引し、冷却水と接触させることにより気化熱で温度を下げるという仕組みです。
次に密閉式ですが、外気と冷却水を直接触れさせずに冷却水の温度を下げる方式になります。
密閉式は、冷却水を冷却コイルという配管の中に流します。
その冷却コイルに、冷却水とは別の散布水を散布し、上部に配置した送風機で外気を誘引し、気化熱の原理を利用して散布水の水温を下げ、さらにコイルの中の冷却水の水温を下げるという仕組みです。
水冷・空冷チラーの違い
チラーが冷却塔(クーリングタワー)とは違うものであるということは前項でご理解いただけたかと思います。
チラーには凝縮器の排熱(熱を奪う)方法が2種類あります。
冷却水を使って排熱する「水冷式」と空気を使って排熱する「空冷式」があります。
ここからは、チラーの2つ種類である空冷チラーと水冷チラーの違いについて理解を深めていきましょう。
水冷チラー
冷却水を使って凝縮器(コンデンサー)から熱を奪います。
一般的には冷却塔が利用され、熱を奪って温められた冷却水を繰り返し冷やしています。
これで「冷凍サイクル」が回り、冷水(循環液)を冷やし目的の装置の温度をコントロールできるようになります。
水冷式は空冷式と比べると冷却効率に優れ、室内で使用しても排熱が発生することはありません。
しかし、水冷式は冷却水を通すための配管を設置する必要があり、そのためのスペースを確保しなければなりません。
どうしても設置スペースが広くなってしまうというデメリットもあります。
空冷チラー
水冷がそうであったように、空冷とは文字通り空気によって凝縮器(コンデンサー)から熱を奪う手法です。
内蔵されたファンにより外気を取り込み、冷凍サイクルを回すことで、冷水(循環液)の温度を一定に保ち、ターゲットの温度も一定に保たれるという仕組みとなっています。
身近な例を挙げると、エアコンの室外機が空冷チラーと同じような仕組みになっています。
空冷式は、水冷式に比べ冷却効率は落ちます。
さらに、冷却に使った外気は当然温かくなっており、その空気が室内に排出されるような構造の施設では室温が上昇することになりますよね。
そうなれば室内の機器類の性能が低下するといった事態にもなりかねません。
このようなデメリットを持った空冷式ですが、水冷式に比べて導入がスムーズに行えることと、設置スペースが小さくできるというメリットもあります。
冷却に水を使わない空冷式は配管などが不要であるため、このようなメリットが生まれるのです。
水冷と空冷それぞれの手法は仕組みが違うことはもちろん、いろいろなメリットとデメリットを持っています。
設置する予定の場所の環境や状況を把握し、最適な手法のチラーを選びましょう。
チラーの構造
最後に、チラーの構造について解説します。
チラーを大きく分けると空冷と水冷の2種類だと述べてきました。
この2つに共通の構造は、圧縮機、蒸発器、膨張弁など「冷凍サイクル」を回すための機器があるという点です。
これらの機器は水冷・空冷の区別なく、冷凍サイクルを回すためには必要なものとなります。
冷凍サイクルが回らないと冷水は作れません。
圧縮機
圧縮機とは、機体を圧縮するための機器です。
具体的には気化した冷媒を圧縮し、高温・高圧の冷媒ガスを作り、再び液体に戻す手助けをします。
凝縮器
圧縮機で圧縮された冷媒ガスは高温・高圧となっています。
凝縮器とは、その状態の冷媒ガスを冷却し、凝縮液化させるために設置される熱交換機です。
凝縮器内では、冷媒ガスを冷却水か空気で間接的に冷却しています。
チラーの違いはこの冷却方法で決まります。
膨張弁
凝縮器から液化されて出てきた高圧の冷媒を、蒸発しやすい状態まで減圧し低圧冷媒液にさせる機器です。
膨張弁にもいくつか種類があり、代表的なものに低圧膨張弁、温度式膨張弁などがあります。
蒸発器
膨張弁により低圧冷媒液となった冷媒は蒸発器という熱交換器に進みます。
蒸発器とは文字通り、液体を蒸発させて気体に変化させる役割を担う機器です。
ここで冷媒液は再び液体の状態から気体に変化します。
その際に発生する気化熱の効果でターゲットの熱を奪う仕組みです。
そして、気体に戻った冷媒は来た時とは別の配管を通り圧縮機に戻されます。
まとめ
チラーについて一通り解説してきました。知れば知るほど産業機器や試験装置になくてはならない機器ですね。
思ったより知らないことも多かったのではないでしょうか。
冷却塔(クーリングタワー)との違いや、水冷と空冷の違いまで、ここまで読んでいただいた人はチラーに関する知識がより深まったことと思います。
ぜひ、この記事で得た知識を活かしてください。